wired.jp 限りなく透明に近いゲル:固体と気体の間に生まれた「物理法則の奇術師」
インタビュー・執筆:
この限りなく透明に近いゲルは、ぼくらの抱く固体のイメージを失わせる。空気のように透明で軽く、密度も極めて低いが、気体ではない。しかしその屈折率が「これまで知られている固体のなかでも最も低い」レヴェルにあるため、見た目には透明で、光はこの固体内を「ほぼ直進できる」。それゆえ、下にあるものが透けて見えるし、上に物をのせれば、浮いたように見える。固体と気体の間に生まれたこの奇妙な物質は「BNFエアロゲル」と呼ばれる。
“空気のゼリー”の不思議な性質
「エアロゲル」は、その成り立ちから“凍った煙”と表現される。そもそも「ゲル」と聞いて想起されるのは、液体と固体の中間のような性質をもつ、ゼリーなどの「湿潤ゲル」だろう。ゼリーは、ゼラチンなどの「ゲル化剤」を加えることで、水を固めた湿潤ゲルだ。
一方のエアロゲルは、煙を固めたようなもの、いわば「空気のゼリー」だ。一般的なゼリーが水のような固体であるのと同様に、エアロゲルは空気のような固体としてふるまう物質である。
冒頭の画像は、「2015 ← BNF AEROGEL」とプリントされた紙の上に円筒形をしたBNFエアロゲルを置き、強い光を当てて撮影したものだ。青白く見えるBNFエアロゲルが、まるでそこには何も存在していないかのように、下のテキストを歪めることなく透過させていることが分かるだろう。
同じことを、BNFエアロゲルの代わりに、例えばガラスやアクリルなどの素材で行えば、文字は大きく歪み、判読は困難になるだろう。地球上の固体のなかでも最も低い屈折率で「透明」なBNFエアロゲルだからこそ可能な現象だ。...continue to read