アルスエレクトロニカレポート(2) カルチャーと信仰は、都市とテクノロジーの姿を変えうるか?
インタビュー・執筆:
人口20万人の街の祭典に、10万人が訪れた
アルスエレクトロニカの拠点リンツは、人口約20万人が暮らし、ヨーロッパ中央部に位置し、ドイツ、イタリア、スイス、スロベニア、ハンガリー、スロバキア、チェコ、リヒテンシュタインの8カ国と国境を接するオーストリア第3の都市だ。
この小さな街で5日間に渡って開かれたアルスエレクトロニカ・フェスティバルに、今年は過去最多となる約10万人が訪れた。単純計算にすぎるかもしれないが、開催期は街の人口の3分の1がフェスティバル関係者という状態になるのだ。ちなみに、今年は日本人の来場者も過去多数だった。元々日本人アーティストや大学とつながりの強いアルスエレクトロニカだったが、ここ数年は「アート×インダストリー」をテーマに企業連携を数多く行い、様々な日本企業の人間がここリンツを訪れていた。
「このトラムの番号は何番かあなた知ってる?」
「ああ、2番だよ。アルスに行くの? このまま乗っていけばPOSTCITYまで行くよ」
この会話は、アルスエレクトロニカ・フェスティバルのメイン会場へ向かう途中、市街地を走るトラムの中で、僕の隣に座る女性との間で偶然に交わされたものだ。
「私はアーティストなの」
「僕は取材で来ているんだ。君は何のアーティスト?」
お互いにフェスティバルへの参加者だということが分かって、一緒に会場まで向かうことにした。何気ない会話をしていたこの5分後、
「私はエクソバイオロジー(宇宙生物学)のアプローチを、イラストレーションやパフォーミングアーツに展開しているの。たとえばあなたは火星に行きたい? 行ってみたいならあなたはもっと“小さく”ならないといけない。ほら、前を歩いているあの大きな白人男性を見て。彼は毎日肉を大量に食べるわよね。そんな人間は火星に行っても生きていけないの。私達が火星にいくためには、私たちは自身の体を変えなきゃいけない。私はそういった『小さくなる人類』を作品の題材にしているの」
こんな会話も、この時期だけはリンツ市の風景の一部となるのだ。...continue to read